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  • zyamagishi

改正電子帳簿保存法における経理の電子化対策の仕方

更新日:2021年11月12日

 この度、電子帳簿保存法(以下、電帳法)が改正され、すべての事業者は電子帳簿・電子書類・電子取引データを電子保存することが可能となりました。この内、特に注意を要するのが電子取引データでありますが、その電子保存が強制されています。これに伴い、様々な対処が必要となってくる為、今回の改正法に対して企業としてどのように対処していくべきかについて解説を行います。



1. 電帳法の概要について


Q1 改正電帳法とは、どのような法律なのでしょうか?簡単に教えてください。


A1 改正電帳法とは、これからのデジタル社会における帳簿や書類の保存方法を、明確にルール化したものになります。したがって、今後は、この法律に則った会計帳簿や経理書類の保存をする必要があります。会社の経理体制をデジタル社会に合わせて変えていく、というイメージで、今回の対応を考えていくことが求められています。


Q2 この法改正により、中小企業としてはまず何に対応しなければいけないのでしょうか?優先順位を教えてください。


A2 改正電帳法は、大まかに3つの区分に分かれています。

(1)電子帳簿保存

(2)スキャナ保存

(3)電子取引保存

このうち、多くの中小企業ではまず(3)電子取引保存を優先して対応しなければなりません。(1)電子帳簿と(2)スキャナ保存による電子化は、事業者の任意のままなのですが、(3)電子取引については、令和4年1月1日から法人・個人すべての事業者において電子取引データの電子保存が義務化されてしまいました。つきましては、まず法令遵守上、この(3)電子取引保存への対応に優先して取り組むべきだといえます。


Q3 電子取引では電子保存が義務化されるとのことですが、紙でやり取りしている請求書や領収書はどうしたら良いのでしょうか?


A3 紙の書類でやり取りされた請求書や領収書は、電子取引ではないため、従来通り、そのまま紙で保存すれば大丈夫です。無理に電子保存する必要はありません。


Q4 従来、電子取引については紙の書面に出力して保存していました。PDFで受け取った請求書や領収書を「そのまま印刷」して保存しておけば、問題ないのでしょうか?


A4 電子取引については紙の書面に出力して保存するといった対応が、令和4年1月以降は許されなくなります。しかも、改正電帳法に則って電子保存していないと、税務調査で「書類が保存されていない」とみなされて、損金が否認されたり、最悪の場合、青色申告承認が取り消されて、税務上の恩恵が受けられなくなったりする可能性があり、要注意です。


Q5 具体的に、電子取引を紙で保存しておいた場合の不都合について教えてください。


A5.令和4年1月1日から、電子取引はオリジナルデータを保管することが法律上義務化されるため、もしこれに対応していないことが税務調査等で明らかになった場合、青色申告の承認が取り消さるなど、税務上不利な取り扱いを受ける可能性があります。

 実際には、保管していなかった電子請求書等の再発行や再取得を求められたり、預金支払データなどの参考資料の追加提出等により、救済が図られるケースもあり得るとは考えられますが、例えば一部については費用が否認される場合も考えられます。また、青色申告の承認取消は、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるか等を検討したうえで判断される、となっていますので、税務調査時においても上記のような追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合的に勘案して確認することになります。


Q6 もし青色申告承認が取り消された場合、どのような不都合があるのでしょうか?


A6 青色申告の承認が取り消された場合、税金計算における各種特典が受けられなくなります。例えば、繰越欠損金の繰越控除や繰戻還付、各種の特別償却や税額控除、引当金の損金算入等ができなくなり、個人の場合には青色事業専従者の給与の必要経費の算入や、青色申告特別控除も受けられなくなります。 これらを適用して申告している場合には、留意が必要です。



2. 電子取引について


Q7 電子取引について、何から手を付けて良いのか分からないのですが・・・


A7 大まかに以下のような流れで、概要を把握してもらればと思います。

  1. 社内にどれだけの電子取引データがあるか探索する これは電子取引データの発行側と受取側に分けて、探索すると良いでしょう。

  2. 電子取引データを、どのように保存するか検討する その際、後述する保存要件がありますので、それに沿った保存を検討しましょう。

  3. 電子取引データを、どの媒体に保存するか検討する その際、後述する保存期間の要件がありますので、それに沿った保存ができるか検討しましょう。

  4. バックアップ体制などを検討しましょう。

Q8 電子取引とはどのようなものでしょうか?


A8 電子取引とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいいます(法2五)。

具体的には以下のような電子取引の例があります。


(1)電子メール

 ①電子メールにより授受した請求書や領収書等のデータ

 ②インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ

 ③ファイル転送サービスにより授受した請求書や領収書等のデータ


(2)インターネット等による取引

 ①ECサイトでの物品購入での経費仕入決済データの授受

 ②鉄道/航空/宿泊代などの経費仕入決済データの授受

 ③ECサイトを利用した商品・サービスの販売にかかる売上決済データの授受

 ④電子レシートアプリなどスマートフォンアプリによる決済データの授受

 ⑤請求書配信WEBシステムでの請求書の授受

 ⑥電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービス

 ⑦経費精算システムによる精算書データの授受

 ⑧電子契約による契約書の授受


(3)その他

 ①インターネットFAXや複合機ペーパーレスFAXによる授受

 ②タブレットによる電子申込システム利用による発注データの授受


(4)EDI取引

 ①EDIシステム、WEB-EDIシステム、サプライチェーンマネジメントシステム

 ②インターネットバンキング、全銀EDIシステム、API連携システム、FinTechサービス



Q9 メールでの電子取引について、どのようなことに注意すべきでしょうか?


A9 電子メールの本文に取引情報が記載されている場合は当該電子メールを、電子メールの添付ファイルにより領収書PDF等が授受された場合は当該添付ファイルを保存することになります。すべての電子メールを保存する必要はなく、あくまでも取引情報に該当する場合のみ保存が必要となります。なお、後述する検索性要件があるため、メールシステムそのものでは保存要件等を満たさないケースが現状多いため、注意が必要です。

Q10 従業員が、Amazon等で購入した立替精算があるのですが、これも電子取引になるでしょうか?


A10 従業員がAmazonなどで会社の経費を立替た場合も、電子取引に該当します。従業員から取引データを集約し、会社として取りまとめて保存し、管理することが必要です。一定の間、従業員のパソコンやスマートフォン等に保存しておくことも可能ですが、従業員が退職してしまったりするとデータ保存ができなくなってしまう恐れもありますので、タイムリーに保存する体制を考える必要があるでしょう。


Q11 最近では、電気代、ガス代、水道代、電話代、などもWEB上での請求明細になってきていますが、これらも電子取引になるでしょうか?


A11 これらも電子取引になります。なお、後述する保存期間の要件があり、これらのサイトが、例えば2年程度しかデータ保持をしない場合には、タイムリーに保存しておかないとデータ保存がそもそもできないケースも発生しますので、注意が必要です。


Q12 最近では、メールのURLをクリックして、ホームページから請求書PDFをダウンロードする形式もありますが、これも電子取引になるでしょうか?


A12 こちらも電子取引になります。これらのURLは有効期限が3ヶ月程度の場合も多く、タイムリーに保存しておかないとデータ保存そのものができないケースも発生しますので、注意が必要です。


Q13 インターネットバンキングで振込をしているのですが、これも保存しないと行けませんか?


A13 インターネットバンキング取引は、EDI取引で、電子取引となりますので、振込(控え)も保存する必要があります。ただ、実際のところ、税務当局はその気になれば銀行取引データは取得できますので、どちらかと言うと税務当局側が興味があるのは、請求書や領収書等の取引情報であろうと思われます。国税庁の電子取引に関する解説資料でもインターネットバンキングについては一言も出てきていません。


Q14 電子取引の把握の仕方についてアドバイスを頂けますか。


A14 どのような書類をやり取りしているのか、誰が誰に発行しているのか、受領しているのかを、商流に沿って整理すると漏れなく把握できるのではないかと思われます。その際、自社が発行している電子情報については比較的簡単に把握できると思われますが、他社から受け取る電子情報については、本社・支店・支部・営業所・社員のどこでどこから発生するのかは様々ですので、探索と理解に時間がかかる場合があると思われます。


Q15 電子取引の把握での注意点を教えてください


A15 本部のみならず、支店・支部・営業所・社長・社員など、組織のすべてのセクションにおいて電子取引がどうやり取りされているのか、全体的なチェックが必要かと思います。中堅企業などでは、本部でまず電子取引の情報収集作業をしてみて、そのノウハウを踏まえて、各支店・支部・営業所・社員などへ展開するのが良いのではないかと思います。

 山岸会計の関与先のケースですと、 発注書・見積書・納品書などは仕入部門が取得しているものの、請求書・領収書などは経理部門が取得となっており、部門が異なるため情報が分断されていて、社内でもお互いがお互いの電子取引についてかなり情報不足であることが判明しています。



3. 保存要件について


Q16 改正電帳法では、会社として改ざん防止措置が必要とのことですが、具体的に何をすればよいのでしょうか。


A16 改ざん防止措置は全部で4つありますが、そのうち1つを選べば良いです。

(1)発信者側が電子データにタイムスタンプを付す

(2)受信者側が電子データにタイムスタンプを付す

(3)訂正削除ができない又は履歴が残るシステムを利用する

(4)改ざん防止のための事務処理規程で対応する

一番簡単なのは、(4)事務処理規程での対応となります。国税庁の一問一答の問24に規定例がありますので、これをダウンロードして会社版にカスタマイズすればOKです。会社毎に保存ルールや電子取引の範囲は違うと思いますので、会社に合わせて作る必要があろうかと思いますので、早めに検討するのが良いと思います。


Q17 改ざん防止措置は、会社としてどれか1つだけ選んで実施するイメージでしょうか?


A17 電子取引データごとに改ざん防止措置を選択します。例えば、取引先から受領する請求書や領収書PDFは、書類保存システムを購入してタイムスタンプ方式で保存する一方、自社発行の請求書控えPDFは、自社サーバーに保存しておき事務処理規程方式で保存する、というように、保存方法をハイブリッドにするケースはあろうかと思われます。


Q18 電子取引データを検索できるように保存する必要があるとのことですが、どう保存したら良いのでしょうか?


A18 単純に保存しておけば良いというわけではなくて、「いつでも検索可能な状態にしておかなければならない」とされています。検索可能とは、主に取引年月日、取引金額、取引先名で検索できることが必要です。


Q19 メールは、過去からすべて検索できるから、そのままメールソフトで大丈夫でしょうか?また、Amazonなども過去の購入履歴があるから、大丈夫でしょうか?


A19 基本的にメールソフトやショッピングサイトの購入履歴は電帳法の検索要件を満たさないものが多いです。取引金額や取引年月日による検索ができないサイトは、電帳法の検索性要件を満たしません。取引年月までしか抽出できないケースやメールソフトだと取引先名や取引金額での検索が容易でないケースがあろうかと思いますので、残念ながら難しいといえます。今後は、システム会社側が電子取引の検索要件を満たすようにバージョンアップしていったり、法改正で要件緩和されたりすれば変わる可能性はありますが、今時点では、難しいケースが多いので、別途、取引情報が記載・添付されたメールを1つ1つ保存する必要があろうかと思います。

Q20 電子取引データは何年間保存しておく必要があるのでしょうか?


A20 書類保存と同様になりますが、法人の場合には7年間(繰越欠損金控除を受ける法人は10年間)、個人事業主の場合には5年間保存が必要です。


Q21 電子取引データを長期間保存するうえでの注意点はありますか?


A21 自社サーバーやクラウド保存サービスで保存し、バックアップを遠隔地保管しておくことなどが必要と思います。例えば個人のパソコンやUSBに保存していると、無くしなり廃棄してしまう恐れがあります。数年分の電子取引データが一瞬ですべてなくなる可能性もありますので、注意が必要です。なお、一般的にハードディスクやSSDの耐用年数は2~5年程度と言われていますので、故障したり読み込みができなくなったりするケースも考えらえます。法人の場合10年間の保存を前提に、データ移行も踏まえて計画的に保存する必要が出てくると思います。


Q22 保存する形式については決まっていますか?


A22 保存するデータの形式は特定されていないので、PDFでなくても結構ですが、汎用性を考えると一般的にはPDFでしょう。ただ、JPEG形式とかXML形式とかでも構いませんが、明瞭に確認でき、速やかに出力が可能であれば良いです。もしEDI取引などでデータが暗号化されている場合には暗号を解いて、見読できる状態で保存することが必要でしょう。


Q23 書類保存システムを使って保存する場合のメリットを教えてください。


A23 TKC会計システムでは書類保存システムが1機能として搭載されています。この書類保存システムを使うことで、改ざん防止措置(タイムスタンプ)、検索性要件、保存期間など電帳法が求めるすべての保存要件を満たして保存することが出来ます。また、会計システムに証憑を紐付けし、証憑表示ボタンを押下することで証憑をすぐに閲覧・ダウンロード・印刷できるようになり大変便利です。


Q24 TKC会計システムの書類保存システムを使うことで、会計事務所とのやり取りも便利になりますか?


A24 TKC会計システムの書類保存システムを使うことで、会計事務所が月次巡回監査で訪問する前に、会計伝票と証憑書類を事前確認することができ、訪問時にターゲットを絞ることができるためお互いに効率的になります。また、随時、同じデータを見ながら相談できるため、相談のしやすさがアップすることが考えられます。


Q25 今回の電子取引の対応が大変なんですが・・・


A25 今回の電帳法改正は、中小企業の経理実務の現場を配慮しているとは言い難い面があることは確かです。また国税庁の一問一答は実務を網羅しておらずグレーゾーンが多いですし、国税庁パンフレットなども分かりにくいので中小企業は戸惑うことと思います。令和4年1月以降も、実務が混乱しそうなことは想像に難くありませんが、冒頭にあるとおり、改正電帳法は今後のデジタル社会における帳簿と書類の保存ルールを定めたものですので、将来的には、この電帳法に沿ったデジタル保存が中小企業の一般的経理方法になっていくと思います。それを念頭に少しずつ経理実務を改善していく、ということになろうかと思われます。



(消費税について)

以下は中級以上の論点となりますので、一定の知識経験がある方向けとなります。


Q26 電帳法は法人と個人が対象とのことですが、消費税はどうなっていますか?


A26 消費税は改正がなかったため、従来通り、電子取引についても原則として書類での保存となっています。ただし、電子保存したい場合には、会計帳簿に「書面で請求書等を受けられなかったやむを得ない理由」と「相手方の住所等」を記載して保存することとなっています(質疑応答事例「インターネットを通じて取引を行った場合の仕入税額控除の要件について」)。ただこれも面倒ですよね。実際には、電子メールに請求書のPDFが添付されてきたとしてこれを出力した書面と、郵送されてきた紙の請求書の区別をすることが難しいので、税務調査時にその判別は容易ではなく指摘は難しいとされています。このため請求書等がデータを出力した書面だったということを理由として消費税が否認された事例も聞いたことがない、と言われています。またインボイス制度においては、法令上、書面出力保存が認められることになっており、令和5年10月のインボイス制度開始までの間は、過渡期に過ぎず、どうせ認められる予定なので、いまからやっても大丈夫だろう、という総合的判断から、否認されることは一般的には考えにくいだろう、と言われています。このあたりはややはっきりしないまま実務が進みそうな向きがあります。



無料相談承ります


 税理士法人山岸会計では上述のような改正電子帳簿保存法への対応に関する相談にも乗っております。初回相談は無料でお受けしておりますので、もし、改正電子帳簿保存法への対応に頭を悩ませている経営者の方や経理責任者の方、改正電子帳簿保存法への対応を考えなければいけないけれども何も出来ていないという経営者の方や経理責任者の方がいらっしゃいましたお気軽に一度ご連絡頂けますと幸いです。

 ※相談したからといって弊事務所に顧問税理士を依頼する必要はございません。




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